ヒルネクロコップの日記

ペルーに2年ほど住んでいたスペイン語学習者です。 読書や旅行の記録、ラテンアメリカのニュースについて書いていきたいと思います。2023年秋からメキシコに来ました。

中南米レストランあるある?「メニュー」と「カルタ」のどうでもいい話

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スペイン語圏で外食をしているときに、ときどき起こること。

 

昨日、とあるレストランで食事をしていると、近くの席の外国人のおじいさんと、店員の女性との間で、意思疎通できていない感じが見て取れた。

聞き耳をたててみると、英語話者のおじいさんはドリンクのメニューがほしいらしく、「メニュー、メニュー」と言っている。

スペイン語で「メニュー」は「定食」の意味なので、店員は「はて?」という顔をしている。

 

親切な僕は「この人はドリンクの『カルタ』(スペイン語のメニュー)がほしいみたいですよ」とスペイン語で店員に告げる。

無事、店員がおじいさんにメニューを持ってきて、おじいさんは僕に「サンキュー、サンキュー」と言う。

 

過去にも何回か体験したおなじみの光景だ。

 

ここまではいいとして、僕は英語が幼稚園児レベルなので、「おじいさん、僕に英語でしゃべりかけないでくれ」と心の中で願う。

でもおじいさんは「Where are you from?」と僕に質問する。

 

ペルーに引っ越してから本当に英語を使う機会がなく、僕の英語力は地の底まで落ちている。

中学で英語を学び始めて以来、最も低いレベルにまで落ちている。

かつて英語で表現できていたことは完全にスペイン語に置き換わり、脳の中で英語に全く変換されなくなった。

 

オーストラリア人だというおじいさんと、幼稚園児レベルの英語で会話を始める。

日本の都市、シアトルのビーチ、ラグビーの代表戦、最近旅行で行った場所…。

おじいさんは人間ができていて、僕がアーアーと苦しむのをゆっくり待ってくれる。

コロナ感染者が増えているとか減っているとかは、もはや表現できない。

それどころか、「大きい」の「Big」が思い出せなくて自分でもびっくりした。

 

もちろん将来は、できれば10年後くらいには、今のスペイン語レベルまで英語ができたらいいなと、ぼんやり考えている。

 

オーストラリア人のおじいさんを悲しませないためにも。

 

グアテマラ・パカヤ火山の噴火に遭遇した

先月は、スペイン語の勉強と仕事の準備のためにグアテマラに滞在していた。

グアテマラ中南米の中でもかなり感染が落ち着いていて、すでに再開している語学学校もいくつかあるし、町を歩いていても観光客が少しずつ戻ってきている。

 

ある日、現地ガイドに案内されて首都グアテマラシティをドライブしていると、フロントガラスの向こうに空高く立ち昇る煙が見えてきた。

1ヶ月ほど前から噴火のニュースが伝えられている「パカヤ火山」だ。

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パカヤ火山。青空に向かって雲を吐き出しているようで美しい

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空港が近いので火山のそばを飛行機が飛んでいく様子が見える


グアテマラ環太平洋造山帯に位置している火山大国で、37の火山があるそうだ。

2018年には別の火山の大噴火があり、およそ300人が亡くなった。

 

ガイドが「いまはパカヤの噴火を近くで見られる絶好のタイミングだよ」と勧めてきたので、午後の予定を変えて、近くまで行ってみることにした。

 

グアテマラシティの中心部から1時間ほど車を走らせると、まだ午後4時前なのに急にあたりが暗くなってきた。

噴煙によって空が覆われているのだ。

さらに突然の激しい雨。

普段この季節に雨はほとんど降らないのだが、噴火による上昇気流によってこうした現象が起こるらしい。


www.youtube.com

到着したのは、パカヤ火山を含め5つの火山が見渡せる「エル・アマテ・キャンプ場 (Finca El Amate)」だ。

キャンプ場のほとんどの地面は、2010年にパカヤが噴火した際に固まった溶岩で埋め尽くされていて、その上を歩けるようになっている。

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激しい雨も収まり、溶岩散策を楽しんでいたそのとき、突如大きな雷がパカヤ火山の頂に落ちた。

その瞬間、「ゴーーッ」という轟音とともに新たな巨大な噴火が始まった。

その時の様子がこの動画だ。

 


www.youtube.com

動画を見返すと、案内してくれたガイドが一番興奮している。

僕が「ここにいて危険はないのか」と聞くと、ガイドは「大丈夫、今日死んでも明日生き返るさ!」と適当なことを言っている。

彼のガイド人生の中でも、これほどの規模の噴火を間近で見たのは初めてだそうで、「これは宗教的な体験だ!」と感動が抑えきれない様子だった。

僕も目の前の光景の壮大さに心を打たれたが、さすがに恐くなってきて、10分ほどでこのキャンプ場から退却した。

 

後日談その1

翌日、新聞を買ってみると、噴火の記事が一面に載っていた。

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噴煙は山頂から2400メートルも上に吹き上がり、周辺自治体が住民のために避難所を準備していると書いてある。

火山の周辺には、パイナップル栽培などで暮らす貧しい農家の家屋がたくさんあった。

彼らの生活は、灰の吸い込みによる健康被害もあるだろうし、常に噴火の恐怖が身近にあるはずで、その過酷さが想像される…。

 

後日談その2

噴火の翌々日には、火山灰が積もった影響で、グアテマラシティの国際空港が一時的に閉鎖されたというニュースが伝えられた。

人の手で滑走路のモップがけをやっている写真を見たが、めちゃくちゃ大変そうだ。。

 

後日談その3

噴火から一週間後、たまたまパカヤ火山の上空を飛行機で飛ぶ機会があった。

夜だったので、赤く光る溶岩がはっきりと見えた。

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ふらっと訪れたグアテマラシティで、偶然にも巨大な噴火と、その後の一連の影響を観察できたのは得難い経験だった。

グアテマラに滞在してみると、ここに住む人たちはまさに火山と隣り合わせで生活していることを実感する。

 

2020年ふりかえり 幻となったいろんな旅行について

2020年、本当に思い通りにいかない年だった。

世界中の多くの人がそう思っているだろうけれど。

 

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まだ世界が平和だった2020年の年明けの花火(2020/1/1 ペルー・リマ)

 

幻のパタゴニア旅行

僕の場合、思えばすでに2019年の終盤からすでに思い通りにいかない日々が始まっていた。

 

12月、妻とともにパタゴニア(アルゼンチン・チリ)への2週間の旅行を計画していたのだが、現地に到着して間もなく、義母が脳出血で倒れて意識不明になったと連絡があった。

ほとんど何も観光できないまま、(自宅のあるペルーには立ち寄らず)アルゼンチンの最南端から妻の実家のある広島まで地球を半周し、計60時間かけて戻ることになった。

 

幸い義母は大事に至らず順調にリハビリを続けているが、僕としては入念に準備したすごく楽しみな旅行だったので、1ヶ月ほど精神的にへこんでいた。

広島では義母と義父の手伝いをいろいろしたので、年末年始にかけて計画していたアマゾン地方への旅行も中止となった。

 

強盗事件

気を取り直して、今年の2月にはブラジル・リオデジャネイロに旅行に行った。

リオのカーニバルは人生の中でも上位にランクインする印象深い光景だった。

だが、旅行の最終日、強盗に襲われてしまった。

「セラロン階段」という地球の歩き方にも載っている観光スポットに行ったのだが、そのすぐ近くで男2人組に殴る蹴るの暴行を受け、妻も僕もリュックや貴重品などすべて奪われた。

この日は、空港に行ってリマに帰る予定だったので、不用意なことにパスポート、現金、カードなどすべて携行していた。

警察署に行って被害届提出。日本領事館に行ってパスポートの再発行の手続き。

結局、新しいパスポートを手に入れるまで3日を要した。

  

幻のアンデス旅行、イグアスの滝旅行

実は、リオから帰ってすぐに日本人の文化人類学者の先生と一緒にアンデスの村々を歩く約束をしていたのだが、その調査にも同行できなくなってしまった。

これもかなり楽しみにしていた行事だったので、精神的ダメージはけっこう大きかった。

(いまもときどき思い出してはうなされる。)

 

また、3月に予定していたイグアスの滝(ブラジル・アルゼンチン)への旅行も、盗まれた物の手続きの関係で断念した。

 

ちなみに、これらの実現できなかった旅行(パタゴニア、アマゾン、リオ、イグアス、アンデス)の飛行機代、ツアー代、盗難品代の大半は戻って来ず、懐に猛烈なパンチを食らった格好になった。

 

コロナウイルス到来

2月下旬、リオに滞在しているときからすでに、コロナの足音は近づいていた。

まだ南米では感染者は出ていなかったが、テレビをつければ中国のコロナの話題ばかり。

道を歩いていても5、6回「コロナウイルス!」と知らない人から罵られ、差別というものを初めて体験した。(南米では中国人も日本人も同じ「東洋人」だ。)

 

3月初旬にリマに戻ってきてからは、「今日から博物館が閉館に」「イベントが中止に」などと騒がしくなってきたが、まだ世の中の空気的には「まだペルーに感染者がいないのに大げさなのでは」という受け止めが大半だった。

 

3月15日はペルーの人々にとって衝撃の日だった。

国内の感染者が十数人という段階で緊急事態宣言が出され、翌16日から薬局やスーパー以外への外出は禁止、17日から空港も閉鎖されることになった。

誰もが寝耳に水の話だったので、急いで外国や他都市に出ようとする人もいたりして、国内は軽いパニック状態という感じだった。

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人気がなくなったリマの幹線道路。コロナ前まではいつも大渋滞だった。

 

監禁生活

ながい地獄のような外出禁止生活についてはまた別の機会に書こうと思うが、人間は移動できないとこんなにストレスがたまるものなのかという心理学的、人類学的な発見があった。

 

半年間、リマの家で夫婦2人だけの生活。

当然のことながら夫婦喧嘩は増えたが、逆に絆が強まったような気もする。

 

日本への一時帰国

8月、ペルーはかなり深刻な状況になった。

感染者は多い時で1日1万人。

サンマリノという人口3万人の小さな国を除くと、人口当たりの死者数では世界一になった。

ざっと1000人に1人が亡くなり、妻の職場でも2人の方が亡くなった。

 

8月末にはついに妻の会社から「一時的に日本へ退避せよ」という命令が出て、外務省のチャーター便に乗ってオランダ経由で日本に帰ってきた。

計40時間、ずっとマスクを付けっぱなしなのがきつかった。

 

まずは関西空港のホテルで2週間の隔離生活を送った。

その後はホテルを転々としながら賃貸住宅を探し、関東に住み始めることになった。

家具を買い揃えたり、いろいろ契約したり、友人に頼まれた結婚式ビデオの製作をしたりと、2ヶ月ほどは忙しく過ごした。

だがそれらが終わって自由時間が増えてみると、会社からは一向にペルーに戻すという連絡はないし、「俺は日本で何をしてるんだ」という思いが募り、うなされるようになった。

(ペルーにいるときからうなされていたけど。)

 

幻となったあれこれ

パンデミックさえ起きなければ、今年は本当にいろんなことをする予定だった。

4月にスペイン語の検定試験、5月にコロンビア旅行、6月にはクスコでボランティアとホームステイ生活。

それ以降にはNGOの手伝いだとか、アンデスの小さな村に滞在して農耕牧畜をさせてもらう予定もあった。

スペインやカリブ海、中米、南米の諸都市をまわる計画も立てていた。

 

迷い込んでしまったパラレルワールド

僕はいま仕事を休職中で、2021年の後半にはまた元の職場に戻らなければならない。

会社で仕事をしているときからこの期間限定の放牧期間をすごく楽しみにしていて、またひとまわり成長した自分になれると思っていたので、なかなかパンデミックという現実を受け入れるのは難しかった。

もちろん、コロナによって自分より困難な状況になっている人がたくさんいるし、健康な自分は恵まれているとも思うけれど・・・。

 

去年の10月、まだ世界が平和だった頃のある日のことだが、夫婦で異様に赤い夕焼けを見た。

妻はそれを境に違う世界線に迷い込んでしまったと信じているのだが(笑)、僕もずっと本来の現実ではなく間違った現実を生きてる感覚だ。

 

巣篭もり期間を生かしてラテンアメリカ関係の本をガシガシ読んで知識を深めようとも思ったが、行けたはずの場所、見れたはずのものが本の中に出てくると、そこで苦しくなって読むのがストップしてしまう。

 

パタゴニアにいるときに義母が倒れることなく、そのまま旅行を続けていたら、そしてその後も順調に生きてきたとしたら、いま自分は何を体験してどんな自分になっているだろうかと。

 

ちゃんと本が読めるようになったのは、本当にここ1ヶ月くらいのことだ。

 

 現実を受け入れる

11月の後半になって、ジャレド・ダイアモンドの『危機と人類』という本を読んだおかげで、自分は「個人的な危機」の中にいるのだと気づくことができた。

また、たまたま本屋で『ストレス管理のキホン』という本を手にとって、自分がこの1年、強いストレス下に置かれていたのだと気づくことができた。

 

そして、絶望して何のやる気も起きないのも当然だ、と自分を受け入れることができ、12月になってやっと生きる気力と勉強するモチベーションが湧いてくるようになった。 

いまはコロンビア人の先生にスペイン語を学びながら、コロンビアの地理・歴史についてコツコツと勉強を始めている。

 

今年の絶望は今年で成仏させて、2021年は新しい年になるように、そしてラテンアメリカに戻ることができるように、パチャママアンデスの大地の神)に祈りながら年を越したいと思う。

  

今年読んで面白かったラテンアメリカ関係の本12冊(後半)

今年読んで面白かった本の中で、ラテンアメリカをテーマとした本の感想を一言ずつ書いてます。

 

1. 『マラス』工藤律子著

2. 『熱狂と幻想  コロンビア和平の深層』田村剛著

3. 『神秘の幻覚植物体験記』フリオ・アシタカ著

4. 『中南米野球はなぜ強いのか』中島大輔著

5. 『アマゾンの料理人』太田哲雄著

6. 『ラテンアメリカ五○○年』清水透著

7. 『都会と犬ども』マリオ・バルガス・リョサ

8. 『深い川』ホセ・マリア・アルゲダス著

9. 『アンデスの祭り』すずきともこ

10. 『旅立つ理由』旦敬介著

11. 『フジモリ元大統領に裁きを』フジモリ氏に裁きを!日本ネットワーク著

12. 『ラテンアメリカをテーマに起業するというリアル』金安顕一著

 

前回紹介した前半の6冊はこちらからどうぞ。

hirunecrocop.hateblo.jp

 

今回は後半の6冊について書きたいと思います。

 

7. マリオ・バルガス・リョサ著/杉山晃訳『都会と犬ども』(新潮社/1987)

2010年にノーベル文学賞を受賞したリョサ出世作

ペルーの軍人養成学校を舞台として、生徒同士の残酷な暴力の世界、教官を巻き込んだ不条理な事件などが、語り手がどんどん入れ替わりながら語られていく。

淡々と物語が進むのかと思いきや、最後の4分の1くらいでストーリーにぐいぐい引き込まれ、ラストはびっくりする仕掛けが用意されていた。

本を興奮して読み終えるのは久々の体験。傑作。

この作品は発表後(1963年)すぐさまスペイン語圏で熱狂を巻き起こして、瞬く間に増刷、15ヶ国語に翻訳されたらしい。

それまで慎ましく暮らしていたリョサは一躍ラテンアメリカ文学の旗手となったそうな。

都会と犬ども

都会と犬ども

 

 

8. ホセ・マリア・アルゲダス著/杉山晃訳『深い川』(現代企画室/1993)

100年ほど前のアンデス山中の学校が舞台の文学作品。

いじめ、レイプ、決闘、暴動、疫病、神父の腐敗、などの暗い事件と、それに向き合う少年の独特のインディオ的精神世界が描かれる。

一昔前のペルーの現実に連れていかれる感じ。

著者のアルゲダスは白人の両親のもとに生れながら、ケチュア語を話すインディオたちのもとで育ったという独特の出自で、彼だからこそ書けたという小説。

深い川 (ラテンアメリカ文学選集 8)

 

9. すずきともこ著『アンデスの祭り』(千早書房/2008)

近所の図書館で見つけてつい手に取ってしまった。

アンデスを中心に、ペルーの21の祭りが写真とともに紹介されている楽しい本。

文章もうまくて、アンデスの村々の文化の豊饒さが実感できる。

こういう祭りがコロナで無くならないといいのだが…。

アンデスの祭り

アンデスの祭り

 

 

10. 旦敬介著『旅立つ理由』(岩波書店/2013)

中南米とアフリカを舞台にした21の小さな物語からなる不思議な本。

エッセイなのか小説なのか、相互の物語がどう関係しているのか、はじめはよくわからなかったが、読み進めると全体がゆるやかにつながってきて、最後には「読み終わりたくない!」と感じていた。

メキシコで誇りをもってハンモックを作る人だったり、ブラジルの道端でカポエイラの演武で小銭を稼ぐ人だったり、ああ自分が知らない場所ではこういう暮らしがあるんだと。

職場の後輩から猛烈におすすめされて読んだが、ほんとに素敵な本だった。

旅立つ理由

旅立つ理由

  • 作者:旦 敬介
  • 発売日: 2013/03/23
  • メディア: 単行本
 

 

11. フジモリ氏に裁きを!日本ネットワーク著『フジモリ元大統領に裁きを -ペルーにおける虐殺被害者に正義を-』(現代人文社/2004)

タイトルは過激だが、内容はいたってまとも。

ペルー現代史の研究者や弁護士などが、フジモリ大統領が犯した数々の人道犯罪(軍による無差別殺人、強制避妊手術など)をコンパクトに教えてくれる。

この本が書かれたのはフジモリがペルーを抜け出して日本に亡命しているときで(日本政府がペルーからの引き渡し要求を拒んでいた)、結局このあとフジモリはペルーに戻り懲役25年の有罪判決を受け収監されることになる。

日本ではこうした事実があまり知られず肯定的評価が多いフジモリ大統領だが、この本を読めば「独裁者」や「犯罪者」としての側面がよく見えてくる。

 

12. 金安顕一著『ラテンアメリカをテーマに起業するというリアル』(中南米マガジン/2017)

バー、雑貨店、旅行代理店、ダンス講師などなど、ラテンアメリカをテーマにで日本で起業した22人の声を集めた本。

いろんな人生があって楽しく読める。

著者ははじめ「こうすれば儲かる!」という起業指南書を作るつもりだったが、意外とみんな儲かっておらず、素直にありのままを書くことにしたらしい。

それでもみんな自分のやりたいことを追いかけていて、著者が書いている通り「新しいことをしたい、人生を変えたいと望む人たちにとって、それが可能ではないかと思わせる魅力に満ちた大地」がラテンアメリカなのだと思えてくる。

ラテンアメリカが好きな日本人の3分類」など著者の独特の分析もあって面白い一冊だった。

ラテンアメリカをテーマに起業するというリアル

ラテンアメリカをテーマに起業するというリアル

  • 作者:金安顕一
  • 発売日: 2017/07/10
  • メディア: 単行本
 

 

 

今年読んで面白かったラテンアメリカ関係の本12冊(前半)

今年読んで面白かった本の中で、ラテンアメリカをテーマとした本の感想を一言ずつ書いてみようかと思う。

 

取り上げるのは以下の12冊。

少し長くなりそうなので、今回は最初の6冊、次の記事で残りの6冊を紹介します。

(順番に特に意味はありません)

 

1. 『マラス』工藤律子著

2. 『熱狂と幻想  コロンビア和平の深層』田村剛著

3. 『神秘の幻覚植物体験記』フリオ・アシタカ著

4. 『中南米野球はなぜ強いのか』中島大輔著

5. 『アマゾンの料理人』太田哲雄著

6. 『ラテンアメリカ五○○年』清水透著

7. 『都会と犬ども』マリオ・バルガス・リョサ

8. 『深い川』ホセ・マリア・アルゲダス著

9. 『アンデスの祭り』すずきともこ

10. 『旅立つ理由』旦敬介著

11. 『フジモリ元大統領に裁きを』フジモリ氏に裁きを!日本ネットワーク著

12. 『ラテンアメリカをテーマに起業するというリアル』金安顕一著

 

1. 工藤律子著『マラス -暴力に支配される少年たち-』(集英社文庫/2018)

今年も中米からアメリカを目指す移民たちのニュースを見たが、なぜそんなに大勢の人たちが国外に出なければならないのか。

そんな疑問を、ホンジュラスの「マラス」というギャング団の抗争をもとに解き明かしてくれるルポルタージュ

もともとマラスがアメリカ・カリフォルニア州の中米移民たちの中で生まれ、ホンジュラスに輸出されたという歴史も面白い。

マラス 暴力に支配される少年たち (集英社文庫)

マラス 暴力に支配される少年たち (集英社文庫)

  • 作者:工藤 律子
  • 発売日: 2018/11/20
  • メディア: 文庫
 

 

2. 田村剛著『熱狂と幻想  コロンビア和平の深層』(朝日新聞出版/2019)

50年にわたって続いたコロンビア内戦についての非常にわかりやすくて読みやすい概説書。

電撃的な和平合意 → 国民投票でまさかの和平案否決 → ノーベル平和賞受賞 → 再度の和平合意という流れはドラマチックだ。

構図的には、政府 vs FARC(左派武装組織)という2者だけでなく、「パラミリターレス」という右派武装組織が大きなファクターとなっていることがよくわかる。

またFARCの野営地も丹念に取材していて、ゲリラ戦でどのように戦うのか、森の中でどのように暮らすのかがわかって面白い。

熱狂と幻滅 コロンビア和平の深層

熱狂と幻滅 コロンビア和平の深層

  • 作者:田村 剛
  • 発売日: 2019/06/20
  • メディア: 単行本
 

 

3. フリオ・アシタカ著『神秘の幻覚植物体験記 〜中南米サイケデリック紀行〜』(彩図社/2019)

著者が体験したのは、マジックマッシュルーム(メキシコ)、ペヨーテ(メキシコ)、アヤワスカ(ペルー)、サンペドロ(ペルー)、パチャママの儀式(ボリビア)。

優れた旅行記でどのエピソードも面白かった。

儀式の途中でシャーマンが居眠りしてしまうところなど、いかにもラテンアメリカらしい。

ペルーに戻ったらアヤワスカは是非体験してみたいところ。

 

4. 中島大輔著『中南米野球はなぜ強いのか -ドミニカ、キュラソーキューバベネズエラMLB、そして日本-』(亜紀書房/2017年)

面白かったのは、バレンティンをはじめとするオランダ勢は、半数ほどがカリブ海の島「オランダ領キュラソー」の出身であること、ラミレスやペタジーニなどのベネズエラ勢は教育レベルが高く、野球スタイルも日本に似ていること、などなど。

結局タイトルの「なぜ強いのか」はよくわからなかったが、これまで「カリブ海出身」とひとまとめに認識していた選手たちを、国ごとの特色を意識して見れるようになった。

 

5. 太田哲雄著『アマゾンの料理人 -世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所』(講談社文庫/2020)

イタリア、スペイン、ペルーのレストランで修行を積んできた著者の冒険記のような本。

有名シェフや修行中の料理人たちとの濃密な交流の様子や、アマゾンでの過酷なホームステイの記録など、ぐいぐい読めて楽しいエッセイだ。

あまり深く考えずに、どんなところにも飛び込んでいってしまう著者の勇気はただただすごい。

個人的には、 ペルーにいるときに食べた美味しい料理の数々が思い出されて懐かしい気持ちに。

(ペルー料理を研究している友人も登場してちょっとびっくり。笑)

 

6. 清水透著『ラテンアメリカ五○○年  -歴史のトルソー-』(岩波現代文庫/2017)

普通の世界史の本とは違い、インディオの側からラテンアメリカの歴史を見る本。

この500年、支配者はいろいろ変われど、先住民系の人々はずっと過酷な環境に置かれてきたことがよくわかる。

この本を読むと、「近代」とは差別を推し進めて固定化する(そしてそれを見えないようにする)間違ったプロジェクトだったのではないかと思えてくる。

これまで断片的に学んできた知識を大きな流れでまとめてくれる「ラテンアメリカの教科書」のような本。

こういう本と出会いたかった。読んで損はない良書。

 

 次回に続きます!

 

ペルーはなぜ大統領がコロコロ変わるのか <ペルー政変2020 ③>

前にも書いた通り、11月はペルーにとって激動の月だった。

わずか1週間で2回も大統領が交代。

抗議デモによって大勢が負傷し、2人が亡くなった。

hirunecrocop.hateblo.jp

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ペルーでは2018年にも大統領が汚職によって罷免されていて、いまのサガスティ大統領は3年間で4人目の大統領だ。

ペルー人の間では「犯罪者をひとり裁くより、大統領を罷免する方が簡単だ」と言われているらしい。

 

なぜこんなに政治が不安定で、大統領がコロコロ変わるのか。

いくつか分析した記事を読んだので、主な要因をメモしておきたいと思う。

Renuncia Manuel Merino: 4 claves que explican por qué han caído tantos presidentes en Perú - BBC News Mundo

Francisco Sagasti: 3 cambios que pueden ayudar a resolver la crisis política en Perú (más allá del nombramiento de un nuevo presidente) - BBC News Mundo

 

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罷免されたビスカラ大統領(引用元:BBC News Mundo

 

1 制度的なパワーバランスが「議会>大統領」

ペルーはラテンアメリカの中では少数派の一院制の国だ。

(1992年にフジモリ大統領が強権的に二院制の議会を廃止し、翌年に一院制の議会を制定。)

そして大統領制ではあるが、大統領による専制を防ぐために少しずつ議会の権限を大きくしてきたらしい。

 

そのため、議会が大統領や閣僚に対して不信任案を出して可決されれば、わずか一度の投票で罷免できてしまう制度となっている。

(全体の20%の議員の発議で不信任案提出 →40%の議員の承認で投票実施 →60%の議員の賛成で罷免)

 

また、憲法にも問題があって、「道徳的な無能さ(incapacidad moral)」という曖昧な理由によって罷免ができてしまう。

今回のビスカラ大統領の場合、州知事時代に受け取った賄賂を追求されたわけだが、はっきりとした証拠もなく訴追されているわけでもないのに、“道徳的にすぐれていない” として罷免された。

「道徳的無能」が何なのか定義があるわけではなく、今回のように恣意的に運用されてしまう危険を常に持っている。

 

2 腐敗した政治風土

ペルーの政治家を揶揄したスラングで「Vientre de alquiler」という言葉があるらしい。

(vientre=お腹、de alquiler=レンタル)

直訳すると「レンタルお腹」「腹貸します」みたいな感じか。

「お金や権力を提供してくれさえすれば、簡単に他の政党に移りますよ。イデオロギーや政策、政治信条は気にしません」という議員たちの気質を表現したものだそうだ。

 

こちらは、記事に出てくる政治学者の言葉。

”この政策を掲げているから”と思ってある議員候補に投票します。

でも後で確かめたら全然違う立場になっていることに気付きます。

それがここペルーなのです。

議会は極端にたるんでいて、腐敗と癒着の温床になっています。

腹黒く、腹が据わっていない(信念がない)のがペルーの政治家なのだ。

 

実際、いまの国会議員130人のうち、半数以上の68人が汚職容疑で捜査の対象になっている。

ビスカラ大統領は汚職撲滅を掲げて国民の大きな支持を得ていたので、それを煙たがった議員たちが罷免に賛同したと言われている。

今後も大統領が汚職撲滅を目指せば、利権に絡んだ議員たちによって罷免されるというのは十分起こりうる。

 

3 バラバラな政党

上に書いたように、ペルーの長年の政治文化として、自分の目先の利益だけを求めて行動する議員が多い。

そのため、政策や政治信条でまとまりを維持するのが難しく、大きな政党が育ってこなかった。

 

特に今年行われた議会選では、定員130の議席を求めて、21の政党が候補者を出す少数乱立状態になった。

結局9つの政党が当選者を出したが、一番大きな政党でも25議席しか持っていない。

 

ビスカラ大統領は自らの政党を持っていなかったし、いまのサガスティ大統領の政党もわずか9議席だ。

例えば日本の自民党のような大きい政党の後ろ盾がないと、どうしても政権基盤は弱くなり、そのときの風向き次第で罷免決議が行われやすくなってしまう。

 

まとめ

以上の3つの理由を書いてみたが、制度面でも、政治風土的な面でも、なかなか問題が根深く、一朝一夕には解決しそうにない。。

責任内閣制の日本とは違って、大統領と議会が対立するのは見ていてスリリングではあるのだが、そのぶんコロナ対策とか経済再建とかは後回しになっていってしまう。

2021年4月の大統領選でも波乱がありそうな雰囲気はあるので、勉強を続けて注目しておきたい。

 

こちらの動画もわかりやすくまとまっています。


¿Por qué han caído tantos presidentes en Perú? | BBC Mundo

 

「カナルタ ‐螺旋状の夢‐ 」(エクアドル) 最近見たラテンアメリカの映画 ④

最近、ラテンアメリカを舞台にした映画を4本見た。

先に書いた3作の感想はこちらからどうぞ。

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4本目は、エクアドルのアマゾン熱帯雨林に暮らす人々の生活を記録した文化人類学的ドキュメンタリーだ。

「カナルタ ‐螺旋状の夢‐ 」(監督:太田光海/2020年)

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セバスティアンパストーラは、エクアドル南部アマゾン熱帯雨林に住むシュアール族。かつて首狩り族として恐れられたシュアール族は、スペインによる植民地化後も武力征服されたことがない民族として知られる。口噛み酒を飲み交わしながら日々森に分け入り、生活の糧を得る一方で、彼らはアヤワスカをはじめとする覚醒植物がもたらす「ヴィジョン」や、自ら発見した薬草によって、柔軟に世界を把握していく。変化し続ける森との関係の中で、自己の存在を新たに紡ぎだしながら。しかし、ある日彼らに試練が訪れる...。映像人類学の世界的拠点、英国マンチェスター大学出身の気鋭監督が放つ渾身作が、特異な表現で新境地を切り開く。

カナルタ―螺旋状の夢―|東京ドキュメンタリー映画祭2020

 

人を惹きつけるシャーマン・セバスティアン

映画は基本的には、シュアール族のシャーマンであるセバスティアンの行動を追ったものなのだが、彼の人柄がすごく魅力的で、見ていて飽きない。

年齢は50歳くらい。シャーマンとして村の人たちの病気を治す役割を担っていて、とにかく好奇心旺盛。常に新たな治療法を探している。

たとえば、アリの巣の中に手を突っ込んで、手にアリの大群をうじゃうじゃ群がらせて「こうやって手の痺れを取るんだ。うん、手の調子が良くなってきた」などど平然と実演してみるシーンはけっこうインパクトがある。

 

さらにこのセバスティアン、話好きで、茶目っ気がある。

村のリーダー的存在のはずなのだが、どこか「いじられキャラ」っぽい面があり、監督も彼を心の中で「イジって」撮っている感じすら漂う。

 

一番印象的だったのは、セバスティアンアヤワスカの儀式を行う場面だ。

アヤワスカとは、アマゾンで広く使われている強い幻覚作用を持った植物で、煮出して飲料にして「ビジョン」を見る儀式に使われる。

夜、セバスティアンは暗い中ひとりでアヤワスカを飲むのだが、吐き気をもよおしてひたすらゲロゲロと吐いてしまう。

「俺は強きシュアール族の○○の息子!なんのこれしき!がんばれセバスティアン!」などと自分を鼓舞するが、それでも吐いてしまう。

儀式に慣れているはずのシャーマンが、ビジョンを見るどころかちょっと情けない姿を晒すのを見て、こちらも戸惑いながら応援したくなってしまう。

 

また、映画の後半に一つの事件が起きる。

セバスティアンはいつも森に入るときにマチェーテと呼ばれる大きな山刀で草を切りながら進んでいくのだが、どうやら不注意で自分の背中を深く切ってしまったらしい。

うつ伏せに寝てうなるセバスティアンと、狼狽する家族。

けっこう緊張感のある場面のはずなのだが、なんというか、ドジである。

結局、西洋医学を学んだ息子に手術してもらって事なきを得るのだが、家で療養している最中も「あの薬草を調合してくれ」とか「自分の体で効果があったら、村の人も信用して治療を受けてくれるだろう」と前向きなので、また応援したくなってしまう。

 

映画を通して、アマゾンを舞台にしたドキュメンタリーによくあるような、おどろおどろしい感じとか神秘的な感じはなく、なぜかコメディを見終わったような読後感だった。

 

口噛み酒

シュアール族の生活の中で面白かったのは「口噛み酒」だ。

君の名は。」で聞き覚えのある酒だが、この村では米ではなくユカ(キャッサバ)で作る。

女性たちがこのお酒を作る担当のようで、セバスティアンの妻が、ユカを口で噛み砕いては「プー!プー!」と勢いよく鍋に吐き出してかき混ぜていく。

そしてそれを煮込む。ただそれだけだ。

作り方もインパクトがあるが、唾液だけで本当に酒ができるという事実も面白い。

この部族では、重労働の作業中にこの口噛み酒を「うまいうまい」とみんなで回し飲みしていた。

きっとパワーの源なんだろう。

 

言語について

映画の中の言語だが、セバスティアンたちが仲間同士で話すときは現地語、監督に向かって何かを説明してくれるときはスペイン語だった(監督もスペイン語で話しかけていた)。

監督は13ヶ月にわたり村で生活したそうだが、ネイティブのスピードの現地語を理解するに至るのはかなり難しいと想像される。

映画を作るにあたっては、シュアール族の人に映像を見てもらって会話をスペイン語訳してもらい、それを監督が日本語訳したのだと思うが、 なかなか大変な作業だったと思う。

 

おすすめの映画・本

この映画とは直接関係ないですが、アマゾンの先住民をテーマにしたものでは、

・映画「彷徨える河」

Netflixドラマ「グリーン・フロンティア」

が面白くておすすめです。

どちらもコロンビアの先住民の役者さんが出てきます。

 

小説だと、キューバの作家・カルペンティエールの『失われた足跡』が圧倒的でした。

こちらはベネズエラオリノコ川流域の熱帯雨林が舞台です。

彷徨える河 [DVD]

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  • 発売日: 2017/08/02
  • メディア: DVD
 


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https://www.netflix.com/jp/title/80205594

 

失われた足跡 (岩波文庫)

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