ヒルネクロコップの日記

ペルーに2年ほど住んでいたスペイン語学習者です。 読書や旅行の記録、ラテンアメリカのニュースについて書いていきたいと思います。2023年秋からメキシコに来ました。

「カナルタ ‐螺旋状の夢‐ 」(エクアドル) 最近見たラテンアメリカの映画 ④

最近、ラテンアメリカを舞台にした映画を4本見た。

先に書いた3作の感想はこちらからどうぞ。

hirunecrocop.hateblo.jp

hirunecrocop.hateblo.jp

hirunecrocop.hateblo.jp

 

4本目は、エクアドルのアマゾン熱帯雨林に暮らす人々の生活を記録した文化人類学的ドキュメンタリーだ。

「カナルタ ‐螺旋状の夢‐ 」(監督:太田光海/2020年)

f:id:hirunecrocop:20201215175506j:plain

セバスティアンパストーラは、エクアドル南部アマゾン熱帯雨林に住むシュアール族。かつて首狩り族として恐れられたシュアール族は、スペインによる植民地化後も武力征服されたことがない民族として知られる。口噛み酒を飲み交わしながら日々森に分け入り、生活の糧を得る一方で、彼らはアヤワスカをはじめとする覚醒植物がもたらす「ヴィジョン」や、自ら発見した薬草によって、柔軟に世界を把握していく。変化し続ける森との関係の中で、自己の存在を新たに紡ぎだしながら。しかし、ある日彼らに試練が訪れる...。映像人類学の世界的拠点、英国マンチェスター大学出身の気鋭監督が放つ渾身作が、特異な表現で新境地を切り開く。

カナルタ―螺旋状の夢―|東京ドキュメンタリー映画祭2020

 

人を惹きつけるシャーマン・セバスティアン

映画は基本的には、シュアール族のシャーマンであるセバスティアンの行動を追ったものなのだが、彼の人柄がすごく魅力的で、見ていて飽きない。

年齢は50歳くらい。シャーマンとして村の人たちの病気を治す役割を担っていて、とにかく好奇心旺盛。常に新たな治療法を探している。

たとえば、アリの巣の中に手を突っ込んで、手にアリの大群をうじゃうじゃ群がらせて「こうやって手の痺れを取るんだ。うん、手の調子が良くなってきた」などど平然と実演してみるシーンはけっこうインパクトがある。

 

さらにこのセバスティアン、話好きで、茶目っ気がある。

村のリーダー的存在のはずなのだが、どこか「いじられキャラ」っぽい面があり、監督も彼を心の中で「イジって」撮っている感じすら漂う。

 

一番印象的だったのは、セバスティアンアヤワスカの儀式を行う場面だ。

アヤワスカとは、アマゾンで広く使われている強い幻覚作用を持った植物で、煮出して飲料にして「ビジョン」を見る儀式に使われる。

夜、セバスティアンは暗い中ひとりでアヤワスカを飲むのだが、吐き気をもよおしてひたすらゲロゲロと吐いてしまう。

「俺は強きシュアール族の○○の息子!なんのこれしき!がんばれセバスティアン!」などと自分を鼓舞するが、それでも吐いてしまう。

儀式に慣れているはずのシャーマンが、ビジョンを見るどころかちょっと情けない姿を晒すのを見て、こちらも戸惑いながら応援したくなってしまう。

 

また、映画の後半に一つの事件が起きる。

セバスティアンはいつも森に入るときにマチェーテと呼ばれる大きな山刀で草を切りながら進んでいくのだが、どうやら不注意で自分の背中を深く切ってしまったらしい。

うつ伏せに寝てうなるセバスティアンと、狼狽する家族。

けっこう緊張感のある場面のはずなのだが、なんというか、ドジである。

結局、西洋医学を学んだ息子に手術してもらって事なきを得るのだが、家で療養している最中も「あの薬草を調合してくれ」とか「自分の体で効果があったら、村の人も信用して治療を受けてくれるだろう」と前向きなので、また応援したくなってしまう。

 

映画を通して、アマゾンを舞台にしたドキュメンタリーによくあるような、おどろおどろしい感じとか神秘的な感じはなく、なぜかコメディを見終わったような読後感だった。

 

口噛み酒

シュアール族の生活の中で面白かったのは「口噛み酒」だ。

君の名は。」で聞き覚えのある酒だが、この村では米ではなくユカ(キャッサバ)で作る。

女性たちがこのお酒を作る担当のようで、セバスティアンの妻が、ユカを口で噛み砕いては「プー!プー!」と勢いよく鍋に吐き出してかき混ぜていく。

そしてそれを煮込む。ただそれだけだ。

作り方もインパクトがあるが、唾液だけで本当に酒ができるという事実も面白い。

この部族では、重労働の作業中にこの口噛み酒を「うまいうまい」とみんなで回し飲みしていた。

きっとパワーの源なんだろう。

 

言語について

映画の中の言語だが、セバスティアンたちが仲間同士で話すときは現地語、監督に向かって何かを説明してくれるときはスペイン語だった(監督もスペイン語で話しかけていた)。

監督は13ヶ月にわたり村で生活したそうだが、ネイティブのスピードの現地語を理解するに至るのはかなり難しいと想像される。

映画を作るにあたっては、シュアール族の人に映像を見てもらって会話をスペイン語訳してもらい、それを監督が日本語訳したのだと思うが、 なかなか大変な作業だったと思う。

 

おすすめの映画・本

この映画とは直接関係ないですが、アマゾンの先住民をテーマにしたものでは、

・映画「彷徨える河」

Netflixドラマ「グリーン・フロンティア」

が面白くておすすめです。

どちらもコロンビアの先住民の役者さんが出てきます。

 

小説だと、キューバの作家・カルペンティエールの『失われた足跡』が圧倒的でした。

こちらはベネズエラオリノコ川流域の熱帯雨林が舞台です。

彷徨える河 [DVD]

彷徨える河 [DVD]

  • 発売日: 2017/08/02
  • メディア: DVD
 


f:id:hirunecrocop:20201222112342p:plain

https://www.netflix.com/jp/title/80205594

 

失われた足跡 (岩波文庫)

失われた足跡 (岩波文庫)