今年読んで面白かった本の中で、ラテンアメリカをテーマとした本の感想を一言ずつ書いてます。
1. 『マラス』工藤律子著
2. 『熱狂と幻想 コロンビア和平の深層』田村剛著
3. 『神秘の幻覚植物体験記』フリオ・アシタカ著
4. 『中南米野球はなぜ強いのか』中島大輔著
5. 『アマゾンの料理人』太田哲雄著
6. 『ラテンアメリカ五○○年』清水透著
7. 『都会と犬ども』マリオ・バルガス・リョサ著
8. 『深い川』ホセ・マリア・アルゲダス著
10. 『旅立つ理由』旦敬介著
11. 『フジモリ元大統領に裁きを』フジモリ氏に裁きを!日本ネットワーク著
12. 『ラテンアメリカをテーマに起業するというリアル』金安顕一著
前回紹介した前半の6冊はこちらからどうぞ。
今回は後半の6冊について書きたいと思います。
7. マリオ・バルガス・リョサ著/杉山晃訳『都会と犬ども』(新潮社/1987)
ペルーの軍人養成学校を舞台として、生徒同士の残酷な暴力の世界、教官を巻き込んだ不条理な事件などが、語り手がどんどん入れ替わりながら語られていく。
淡々と物語が進むのかと思いきや、最後の4分の1くらいでストーリーにぐいぐい引き込まれ、ラストはびっくりする仕掛けが用意されていた。
本を興奮して読み終えるのは久々の体験。傑作。
この作品は発表後(1963年)すぐさまスペイン語圏で熱狂を巻き起こして、瞬く間に増刷、15ヶ国語に翻訳されたらしい。
それまで慎ましく暮らしていたリョサは一躍ラテンアメリカ文学の旗手となったそうな。
8. ホセ・マリア・アルゲダス著/杉山晃訳『深い川』(現代企画室/1993)
100年ほど前のアンデス山中の学校が舞台の文学作品。
いじめ、レイプ、決闘、暴動、疫病、神父の腐敗、などの暗い事件と、それに向き合う少年の独特のインディオ的精神世界が描かれる。
一昔前のペルーの現実に連れていかれる感じ。
著者のアルゲダスは白人の両親のもとに生れながら、ケチュア語を話すインディオたちのもとで育ったという独特の出自で、彼だからこそ書けたという小説。
9. すずきともこ著『アンデスの祭り』(千早書房/2008)
近所の図書館で見つけてつい手に取ってしまった。
アンデスを中心に、ペルーの21の祭りが写真とともに紹介されている楽しい本。
文章もうまくて、アンデスの村々の文化の豊饒さが実感できる。
こういう祭りがコロナで無くならないといいのだが…。
10. 旦敬介著『旅立つ理由』(岩波書店/2013)
中南米とアフリカを舞台にした21の小さな物語からなる不思議な本。
エッセイなのか小説なのか、相互の物語がどう関係しているのか、はじめはよくわからなかったが、読み進めると全体がゆるやかにつながってきて、最後には「読み終わりたくない!」と感じていた。
メキシコで誇りをもってハンモックを作る人だったり、ブラジルの道端でカポエイラの演武で小銭を稼ぐ人だったり、ああ自分が知らない場所ではこういう暮らしがあるんだと。
職場の後輩から猛烈におすすめされて読んだが、ほんとに素敵な本だった。
11. フジモリ氏に裁きを!日本ネットワーク著『フジモリ元大統領に裁きを -ペルーにおける虐殺被害者に正義を-』(現代人文社/2004)
タイトルは過激だが、内容はいたってまとも。
ペルー現代史の研究者や弁護士などが、フジモリ大統領が犯した数々の人道犯罪(軍による無差別殺人、強制避妊手術など)をコンパクトに教えてくれる。
この本が書かれたのはフジモリがペルーを抜け出して日本に亡命しているときで(日本政府がペルーからの引き渡し要求を拒んでいた)、結局このあとフジモリはペルーに戻り懲役25年の有罪判決を受け収監されることになる。
日本ではこうした事実があまり知られず肯定的評価が多いフジモリ大統領だが、この本を読めば「独裁者」や「犯罪者」としての側面がよく見えてくる。
12. 金安顕一著『ラテンアメリカをテーマに起業するというリアル』(中南米マガジン/2017)
バー、雑貨店、旅行代理店、ダンス講師などなど、ラテンアメリカをテーマにで日本で起業した22人の声を集めた本。
いろんな人生があって楽しく読める。
著者ははじめ「こうすれば儲かる!」という起業指南書を作るつもりだったが、意外とみんな儲かっておらず、素直にありのままを書くことにしたらしい。
それでもみんな自分のやりたいことを追いかけていて、著者が書いている通り「新しいことをしたい、人生を変えたいと望む人たちにとって、それが可能ではないかと思わせる魅力に満ちた大地」がラテンアメリカなのだと思えてくる。
「ラテンアメリカが好きな日本人の3分類」など著者の独特の分析もあって面白い一冊だった。