2025年の読書記録の続きです。前回、前々回の記事はこちら。
今回はラテンアメリカ以外の本から。
- ガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って/太陽の男たち』(黒田寿郎、 奴田原睦明 訳)
- 岡真理『ガザとは何か』
- 大江健三郎『M/Tと森のフシギの物語』
- 吉見俊哉『東京裏返し 都心・再開発編』
- 柴田大輔『まちで生きる まちが変わる』
- 手塚治虫『きりひと賛歌』
ガッサーン・カナファーニー『ハイファに戻って/太陽の男たち』(黒田寿郎、 奴田原睦明 訳)
主に1960年代に書かれたパレスチナ文学の名作短編集。イスラエル建国以降、パレスチナの個人個人にどんな悲劇が起きてきたのか、ミクロな視点からよくわかる作品。
パレスチナ人が体験してきた不条理への戸惑い、怒り、悲しみが一文一文から伝わってきてつらい。そしてこれが過去の話ではなく、さらに悲惨な事態がガザで現在進行形で起こっていることに救いがなく途方にくれるような気持ちになる。

岡真理『ガザとは何か』
アラブ文学・パレスチナ問題の第一人者による講演録。ガザは60年近く国際法違反の占領下におかれ続け、18年以上も国際法違反の封鎖状態が続いている。おととしのハマースの攻撃がなぜ起こったのかがとてもよくわかる一冊。
著者による切実な訴えが重い。
ガザ、それは巨大な実験場です。イスラエルの最新式兵器の性能を、実践で実験するところ。…食糧も水も医薬品も、辛うじて生きるのに精一杯という程度しか与えないでいたら、人間はどうなるか、その社会はどうなるか、何が起こるのか、という実験です。
非暴力で訴えても世界が耳を貸さないとしたら、銃を取る以外に、ガザの人たちに他にどのような方法があったでしょうか。反語疑問ではありません。純粋な疑問です。教えてください。
ガザは「野外監獄」などではなく「絶滅収容所」だという。読む前から覚悟はしていたが、同時代に起こっていることの惨さに心がダメージを食らう。知れば知るほど、なぜイスラエルがここまで非人道的な行為を普通にできるのかわからなくなる。
カナファーニーの『ハイファに戻って/太陽の男たち』の副読本として読み始めたが、カナファーニーの時代にわずかにあった希望も打ち砕かれ、絶望しか残らない感じ。ちなみに著者の岡真理さんはカナファーニーの小説からパレスチナ問題・アラブ文学を志したらしい。
大江健三郎『M/Tと森のフシギの物語』
大江の長編を読むのは『万延元年のフットボール』『懐かしい年への手紙』に次いで3冊目だが、その間をつないでくれるような本だった。小説というよりは、神話というか村の創世記を読んでいるかのよう。
一章一章が短く、文章も平易でめちゃくちゃ読みやすい。『同時代ゲーム』が難解すぎて読まれなかった反省から、この本を「少年たちにも読めるものに書き換えた」のがこの本だそう。前二作ほどの衝撃はなかったが、「壊す人」「オシコメ」「メイスケさん」など大江の"四国の森"用語が初めて理解できてよかった。
Mはメイトリアーク(女家長・女族長)、Tはトリックスターを表し、村の歴史の重要局面では必ずMとTがセットで活躍する。文化人類学者の山口昌男的だなーと思って読んでたら、実際70年代の大江は山口昌男に大いに影響を受けて執筆していたそうだ。『文化と両義性』は熱中して読んだとのこと。
そして祖母の昔話の語り口から『M/T』の語り方を見つけ出したというのがガルシア・マルケスの『百年の孤独』と同じで面白い。
『同時代ゲーム』が読みにくそうなので『M/T』を代わりに読めばいいかと考えていたが、読み終わってみると『同時代ゲーム』はやはり重要で避けては通れない道だと感じ始めている。。
吉見俊哉『東京裏返し 都心・再開発編』
主に都心南部の街歩きガイドの本。社会学者の大家の吉見先生が案内するので面白くないわけがない。徳川軍による占領→薩長軍による占領→軍隊の街へ→米軍による占領という重層的な歴史が街を歩くとよく見えてくる。
さらには、戦後のオリンピックシティ化、西武・東急の二大電鉄資本による”占領”まで。カバーしている範囲が、渋谷、新宿、世田谷、目黒、港区など、比較的よく知っているエリアだったのでなおさら興味深く読んだ。本を読み、Googleマップでピンを打ち、実際に歩いてみるといろんな発見がある。

都心南部はもともと江戸時代に大名屋敷が多く、各藩が持っていた広大な土地が戦後に大学や公園、大使館、タワマンなどになったのも初めて知った。一方で歴史の痕跡をまるごと消し去る再開発の怖さも伝わってくる本だった。
柴田大輔『まちで生きる まちが変わる』
障害者の「自立生活」をテーマにした素晴らしい本だった。自立生活とは、障害者が家族の世話にもならず、施設にも入らず、「介助者」のサポートを受けながら自力で生活すること。人生のさまざまな場面で”自分で何かを選択できる”ようになるだけで、こんなに人生が彩り豊かになるのかと目から鱗が落ちまくりだった。
そして人工呼吸器を付けるほどの重度障害を持つ人でさえも自立生活をして自分の人生を切り開いているというのはすごい。

この本は、それぞれの障害者の方の人生のストーリーを語りながらも、ちゃんと日本の制度や障害者運動の歴史が平易にわかる仕組みになっていて、福祉の入門書としても非常に優れている。めっちゃおすすめしたい。
手塚治虫『きりひと賛歌』
医師界のどろとろした権力争いと謎の風土病の解明をメインテーマとしつつ、日本の田舎の風俗、世界各国の貧困、差別、宗教などが複雑にからみ合う硬派な作品。読み出すと面白くて止まらなくなる。全4巻。
『奇子』、『アドルフに告ぐ』、『陽だまりの樹』などの”大人手塚”の系譜に連なる作品で、読後感もすごい。手塚はやはり長編の名手だと再確認した。











衝撃的だったのは、スペイン征服後に破壊されたアステカの偶像の数は2万個にのぼったとのこと。現代に残っている遺物だけでもこれだけユニークで魅力的なのだから、もし破壊されていなかったらどれだけ壮観だっただろう。つくづく残念。










































































































