ヒルネクロコップの日記

ペルーに2年ほど住んでいたスペイン語学習者です。 読書や旅行の記録、ラテンアメリカのニュースについて書いていきたいと思います。2023年秋からメキシコに来ました。

大江健三郎 『万延元年』以外の作品もめっちゃ読みたくなった

ムーさんが紹介する大江健三郎おすすめ作品

万延元年のフットボール』を読んだあと、大江健三郎の他の作品についても知りたいと思い、NHK「100分de名著」やYouTubeの解説を見たりしている。

中でもわかりやすかったのが、「文学YouTuberムー」さんという方の動画だ。

大江作品のほとんど全てを読んだというムーさんは、長編34作を「初期」「中期」「後期」に分類して紹介している。

(ていうか34作もあるのか…!!)

 

初期:  『芽むしり仔撃ち』〜『個人的な体験』まで

中期: 『万延元年のフットボール』〜『燃えあがる緑の木』まで

後期:『宙返り』~『晩年様式集』まで

 

中でも、もっとも充実してすごい作品ぞろいなのが中期だそうだ。

youtu.be

ムーさんの解説を聞いて、『懐かしい年への手紙』『M/Tと森のフシギの物語』あたりの代表作は絶対読みたくなった。

「多くの人が初期の短編『死者の奢り・飼育』だけで読むのをやめてしまうが、あまりにもったいない!」とムーさんは力説する。

 

大江作品に繰り返し登場する「四国の森」の系譜

NHK「100分de名著」のテキスト、小野正嗣大江健三郎   燃えあがる緑の木』も勉強のために読んでみた。

この本によると、大江作品の面白い特徴として、

・海外の文学作品を自作に取り込んで物語を展開する

・大江さん自身の過去の作品さえも取り込まれ、物語の材料になる

ということが挙げられるようだ。

『万延元年』の舞台となった「四国の谷間の村」は、その後の作品にも少しずつ姿を変えながら何度も登場する。

その系譜は、『万延元年』→『同時代ゲーム』→『M/Tと森のフシギの物語』→『懐かしい年への手紙』→『燃えあがる緑の木』と続いていくそうだ。

それぞれ前作を巧みに取り込みながら、そして同じような名前の登場人物を少しずつ変化させながら、新しいテーマの物語を紡いでいく。

僕はまだ『万延元年』を読んだだけだが、この本に登場した暴動の主「鷹四」が、『燃えあがる緑の木』では救世主「隆」となって再登場するようで、すごく読んでみたくなる。

 

新宿・紀伊國屋大江健三郎コーナーがすばらしかった

僕は本屋を散歩するのが趣味なのだが、大江さんの本が大々的に特集されているのをほとんど見たことがない。

谷崎潤一郎三島由紀夫、阿部公房、村上春樹などの作家と比べると、長編小説の認知度という点ではどうしても劣ってしまう。

(代表作は?と聞かれて、上記の作家たちはすぐに挙げられるが、大江健三郎はそうでもない気がする。)

大江さんはノーベル文学賞まで受賞しているのに、「ヒロシマ・ノート」「沖縄ノート」などのルポの方が有名で、戦後民主主義的な文脈で世間に認知されている、ちょっと不思議な小説家だと感じる。

 

だが先日、新宿の紀伊國屋書店の大江さんの追悼コーナーに行くと、大江作品が一挙に陳列されていて壮観だった。

これまで実物を見たことがなかった小説も手に取ることができ、少し興奮した。

中には亡くなってから復刊された作品もあるようだ。

大江さんも紀伊國屋に何度か来店していたそうで、書店員たちの個人的な思いのつまった追悼のお手紙も読み応えがあった。

上のツイートに書かれている「とにかく読んでくれもっと読んでくれ大江は本当にすごいぞ」って文句がすごくいい。

『万延元年』を読んだいま、その気持ちがよくわかる。

 

実はつながりが深い大江健三郎ラテンアメリカ

せっかくなので、大江健三郎ラテンアメリカとのつながりもメモしておきたいと思う。

大江さんは1976年、41歳のときにメキシコに行き、大学(コレヒオ・デ・メヒコ)で数か月の間、客員教授として教鞭をとっていた。

ウィキペディアによると、「現地でオクタビオ・パスフアン・ルルフォ、メキシコに居を構えていたガブリエル・ガルシア=マルケスらラテン・アメリカの文学者と知り合」ったらしい。

ラテンアメリカを代表する錚々たるメンバーだ。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E6%B1%9F%E5%81%A5%E4%B8%89%E9%83%8E

大江健三郎 作家自身を語る』という本の中には、こんな記述がある。

メキシコシティという大都市自体が現代社会と神話世界が共存しているようで、とても刺激的な場所でした。

その後、『同時代ゲーム』、『「雨の木」を聴く女たち』、『懐かしい年への手紙』など、大江作品にメキシコがたびたび登場することになる。

 

3月に大江さんが亡くなったときには、メキシコ大使館も追悼のメッセージを出している。

 

また、大江さんはペルーのノーベル文学賞作家であるマリオ・バルガス=リョサとも親交があった。

大江さんの方がバルガス=リョサより1つ年上で、往復書簡を交わすなど、お互いに作家として敬愛し合っていたようだ。

私が三十代後半を迎えた1970年前後がラテンアメリカ文学の世界的な花盛りでした。ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』は邦訳があって読んでいましたし、(中略)とくにバルガス=リョサは私と同年輩で、とくに愛読しました。(『大江健三郎 作家自身を語る』)

2011年の大江健三郎マリオ・バルガス=リョサ

https://www.jiji.com/jc/d4?p=oek001-jpp11005367&d=d4_cc より引用

 
日本から存命のノーベル文学賞受賞者がいなくなった

知り合いから聞いた話だと、毎年ノーベル文学賞の発表日になると、大江さんの世田谷のご自宅前にマスコミの記者が集まっていたそうだ。

村上春樹が受賞したときに大江さんにコメントを求めるためだ。

だが、日本人の受賞者を見届けることなく今年3月に大江さんは亡くなってしまった。

少し寂しいが、作品をどんどん読んでいって追悼したい。

 

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