今年読んで面白かった本の中で、ラテンアメリカをテーマとした本の感想を一言ずつ書いてみようかと思う。
取り上げるのは以下の12冊。
少し長くなりそうなので、今回は最初の6冊、次の記事で残りの6冊を紹介します。
(順番に特に意味はありません)
1. 『マラス』工藤律子著
2. 『熱狂と幻想 コロンビア和平の深層』田村剛著
3. 『神秘の幻覚植物体験記』フリオ・アシタカ著
4. 『中南米野球はなぜ強いのか』中島大輔著
5. 『アマゾンの料理人』太田哲雄著
6. 『ラテンアメリカ五○○年』清水透著
7. 『都会と犬ども』マリオ・バルガス・リョサ著
8. 『深い川』ホセ・マリア・アルゲダス著
10. 『旅立つ理由』旦敬介著
11. 『フジモリ元大統領に裁きを』フジモリ氏に裁きを!日本ネットワーク著
12. 『ラテンアメリカをテーマに起業するというリアル』金安顕一著
1. 工藤律子著『マラス -暴力に支配される少年たち-』(集英社文庫/2018)
今年も中米からアメリカを目指す移民たちのニュースを見たが、なぜそんなに大勢の人たちが国外に出なければならないのか。
そんな疑問を、ホンジュラスの「マラス」というギャング団の抗争をもとに解き明かしてくれるルポルタージュ。
もともとマラスがアメリカ・カリフォルニア州の中米移民たちの中で生まれ、ホンジュラスに輸出されたという歴史も面白い。
2. 田村剛著『熱狂と幻想 コロンビア和平の深層』(朝日新聞出版/2019)
50年にわたって続いたコロンビア内戦についての非常にわかりやすくて読みやすい概説書。
電撃的な和平合意 → 国民投票でまさかの和平案否決 → ノーベル平和賞受賞 → 再度の和平合意という流れはドラマチックだ。
構図的には、政府 vs FARC(左派武装組織)という2者だけでなく、「パラミリターレス」という右派武装組織が大きなファクターとなっていることがよくわかる。
またFARCの野営地も丹念に取材していて、ゲリラ戦でどのように戦うのか、森の中でどのように暮らすのかがわかって面白い。
3. フリオ・アシタカ著『神秘の幻覚植物体験記 〜中南米サイケデリック紀行〜』(彩図社/2019)
著者が体験したのは、マジックマッシュルーム(メキシコ)、ペヨーテ(メキシコ)、アヤワスカ(ペルー)、サンペドロ(ペルー)、パチャママの儀式(ボリビア)。
優れた旅行記でどのエピソードも面白かった。
儀式の途中でシャーマンが居眠りしてしまうところなど、いかにもラテンアメリカらしい。
ペルーに戻ったらアヤワスカは是非体験してみたいところ。
4. 中島大輔著『中南米野球はなぜ強いのか -ドミニカ、キュラソー、キューバ、ベネズエラ、MLB、そして日本-』(亜紀書房/2017年)
面白かったのは、バレンティンをはじめとするオランダ勢は、半数ほどがカリブ海の島「オランダ領キュラソー」の出身であること、ラミレスやペタジーニなどのベネズエラ勢は教育レベルが高く、野球スタイルも日本に似ていること、などなど。
結局タイトルの「なぜ強いのか」はよくわからなかったが、これまで「カリブ海出身」とひとまとめに認識していた選手たちを、国ごとの特色を意識して見れるようになった。
5. 太田哲雄著『アマゾンの料理人 -世界一の“美味しい”を探して僕が行き着いた場所』(講談社文庫/2020)
イタリア、スペイン、ペルーのレストランで修行を積んできた著者の冒険記のような本。
有名シェフや修行中の料理人たちとの濃密な交流の様子や、アマゾンでの過酷なホームステイの記録など、ぐいぐい読めて楽しいエッセイだ。
あまり深く考えずに、どんなところにも飛び込んでいってしまう著者の勇気はただただすごい。
個人的には、 ペルーにいるときに食べた美味しい料理の数々が思い出されて懐かしい気持ちに。
(ペルー料理を研究している友人も登場してちょっとびっくり。笑)
6. 清水透著『ラテンアメリカ五○○年 -歴史のトルソー-』(岩波現代文庫/2017)
普通の世界史の本とは違い、インディオの側からラテンアメリカの歴史を見る本。
この500年、支配者はいろいろ変われど、先住民系の人々はずっと過酷な環境に置かれてきたことがよくわかる。
この本を読むと、「近代」とは差別を推し進めて固定化する(そしてそれを見えないようにする)間違ったプロジェクトだったのではないかと思えてくる。
これまで断片的に学んできた知識を大きな流れでまとめてくれる「ラテンアメリカの教科書」のような本。
こういう本と出会いたかった。読んで損はない良書。
次回に続きます!