前回、前々回の記事では古代メキシコの10の重要な神々を紹介した。
だが、それ以外にも知っておいて損はない神々がけっこういるので、ここではプラスして8人紹介したいと思う。(全然10選になっていない…。)
属性の内訳としては、自然現象に関係した神3人(太陽、火、風)、食べ物に関係した神2人(トウモロコシ、酒)、日常生活に関係した神3人(出産、芸術、犬)だ。
太陽の神 トナティウ(Tonatiuh)
太陽の神。かの有名な「太陽の石」(アステカカレンダー)の中心に彫られている。アステカの世界観では、過去に4つの世界(4つの太陽)が滅び現在は5番目の世界(5番目の太陽)なのだが、その現世を統治しているのがこの太陽の神、トナティウだ。
火の神 ウエウエテオトル(Huehuetéotl)
火の老神。しわしわで背骨の曲がった老人が頭に火鉢を乗せている姿が特徴。他の自然現象の神に比べて極めて人間に近い姿をしているが、その理由は火だけは人間が起こすことができるかららしい。紀元前から崇拝されている古い神。古代メキシコ展には小さいやつが来日。
トウモロコシの神 チコメコアトル+センテオトル(Chicomecóatl, Centéotl)
トウモロコシの神。メソアメリカ(メキシコ+中米)にとって欠かすことのできない主食の神で、太古から存在していたと言われる。作物の豊作と人間の多産を司る。チコメコアトルが女性で、センテオトルが男性。チコメコアトルの方は両手にトウモロコシを持って顔を赤く染めているのが特徴。古代メキシコ展の中でも印象的な展示の一つ。
風の神 エエカトル(Ehécatl)
風の神。ケツァルコアトルの化身。くちばしのついたサルの格好をしている。見た目がかわいいのできっとファンも多いはず。1960年代、メキシコシティ中心部に地下鉄の駅を造ろうとしていたところエエカトルの神殿が発掘された。いまでもピノ・スアレス駅でこの神殿を見ることができ、エエカトルについて説明するポスター展示がなされている。
芸術の神 ソチピリ(Xochipilli)
芸術の神。音楽の神。ソチピリはナワトル語で「花の王子」という意味。体が花で覆われている。メキシコ国立人類学博物館に展示されているこの有名な石彫は、幻覚植物を食べた恍惚状態の表情だとされる。さすがアートの神…。歌、音楽、ダンス、遊戯、美、愛、喜びなどを司るとされる。
出産死の神 シワテオトル(Cihuatéotl)
なんだかかわいい見た目をしているが、実は出産中に亡くなった母親の神。アステカでは出産死は戦死と同じくらい尊いこととされていた。国立人類学博物館にはシワテオトルの石像がたくさん展示されている。それだけ当時さかんに作られていたということか。メキシコの有名な伝説「ジョローナ」(殺してしまったわが子を求めて水辺を彷徨い歩く女性)の元になったとも言われる。
マゲイの神 マヤウェル(Mayáhuel)
マゲイ(リュウゼツラン=メキシコの代表的な植物)の神。またはマゲイから作られる発酵酒プルケの神。プルケは神々に捧げる重要な飲み物だった。絵文書では人間の赤ちゃんに授乳(というか授プルケ)している姿が描かれている。
犬の神 ショロトル(Xólotl)
犬の神。ケツァルコアトルの分身、双子とされる。古代メキシコでは、犬は死んだ人間が地下の冥界(ミクトラン)に向かうのに付き従う存在とされていた。アステカ神話に出てくるショロトルは、ケツァルコアトルにお供してミクトランに行き、最初の人間を作るお手伝いをする役割を果たしている。映画「リメンバーミー」でも主人公ミゲルが死者の世界に行くのに、犬のダンテ(ショロという犬種)が付き添っていた。
まとめ
ここまで古代メキシコの10神+8神を見てきたが、太陽の神、大地の神、風の神が複数いるではないか、と疑問に思うかもしれない。
これはおそらく、アステカが他の民族を征服しながら移動する過程で、その民族や土着の神々を取り込むことでキャラかぶりが起きたものと推測される。
例えば太陽神・軍神ウィツィロポチトリがアステカ人独自の神であったのに対し、太陽神トナティウはそれよりも古い時代(トルテカ人の頃、あるいはもっと昔)から信仰されていたと言われている。
まあ、あまり厳密に考えず、ここで紹介した18の神々くらいをなんとなく知っていると、日本の古代メキシコ展、メキシコの国立人類学博物館やテンプロ・マヨール、その他の博物館を訪れるときに楽しさが倍増するのではないかと思う。
またメキシコで壁画やアート作品を鑑賞するときや、お土産を買うときにもきっと役立つはずだ。
その1、その2はこちらからどうぞ。