ヒルネクロコップの日記

ペルーに2年ほど住んでいたスペイン語学習者です。 読書や旅行の記録、ラテンアメリカのニュースについて書いていきたいと思います。2023年秋からメキシコに来ました。

移民たちを襲う腐敗した軍・警察、そして列車事故について

「野獣列車」の移民支援のボランティアに行った話の続き。

ここでは、メキシコから北を目指す移民たちがどんなリスクにさらされているのかを少し書いてみたいと思う。

ヘッドライトを照らしながら通過する野獣列車
列車にひかれ両足を失った移民

パトロナスの宿泊施設には、ベネズエラからやってきた親子(50代くらいの父親と30代前半の息子)がいた。

父親は両足の太ももから下をなくし車椅子に乗っていた。

施設の人に聞くと、彼は1ヶ月ほど前に列車にひかれて足を失ったらしい。

息子の方が、父親をトイレやシャワーに入れたりと介護を担っていた。

 

僕はこの親子と仲良くなりいろいろと話をした。

彼らはベネズエラ経済破綻にも耐えて首都カラカスで長年暮らしていたものの、ついに生活できなくなり2ヶ月前にアメリカを目指してベネズエラを出国した。

「死のジャングル」とも言われるダリエン地峡(コロンビア・パナマ国境)を渡りきり、メキシコまで徒歩でやってきた。

 

メキシコに入ってからのことはあまり多くを語りたがらなかった。

おそらく野獣列車に乗って北を目指していたのだと思う。

途中、犯罪組織に金を脅し取られたりするなど相当つらい行程を歩んできたということだけは少しだけ話してくれた。

 

両足をどのように失ったのかは本人たちには聞いていない。

おそらくある日列車から転落して轢かれたのだと想像される。

病院で切断手術を受け、退院してパトロナスの宿泊施設にやってきたようだ。

パトロナスが提供している移民用の宿泊施設

彼らのように列車から落ちて手足を切断する移民は本当に多く、移民支援における一つの課題となっている。

前回の記事にも書いたように、野獣列車は旅客車ではなく貨物列車なので、移民たちは列車の連結部分や屋根の上など不安定な場所で長時間を過ごす。

強烈な太陽が照りつけ、水や食料も十分には持っていないので、意識がもうろうとすることもあるだろう。

 

僕が出会ったベネズエラから来た親子は、これからアメリカを目指すにはかなり困難な状況に置かれてしまった。

彼らが、今後どのような選択をするのかはわからない。

 

腐敗した軍・警察が移民を襲う

列車事故のほかに移民たちにとってもう一つ大きなリスクとなっているのが、彼らを襲う犯罪組織、そして犯罪組織と結託した軍・警察だ。


僕が滞在していた1週間のうち、実は移民が乗った列車が通ったのは1回だけだった(15人ほどが乗っていた)。

以前に比べて列車に乗る移民は減っているらしい。

列車の音が聞こえると皆でパンと水を準備して線路まで駆けつけるのだが、ほとんどの列車は移民が乗っておらず空振りに終わった。

 

たまたま今回ボランティアに来ていたメキシコ人の社会学者(移民研究が専門)に聞くと、列車に乗る移民の減少は、彼らの安全が脅かされるようになったことが原因らしい。

まず、不法移民の取り締まりを行っているメキシコの軍や警察が彼らを見つけると列車から降りるよう指示する。

そして軍・警察自身が不法滞在を見逃すかわりに金を要求することもあれば、移民たちを車に乗せて犯罪組織に引き渡すこともあるという。

移民たちは犯罪組織から金を渡すよう脅迫され、それを拒めば拷問を受け、最悪命を落とす。

移民たちにとって腐敗した軍・警察・犯罪組織はすべて敵であり、さまざまな危険をかいくぐりながら命をかけて北を目指している。

そのように社会学者は教えてくれた。

もちろんアメリカとの国境を越える際や、アメリカに入ってからも数えきれないくらいの危険があるだろう。

だがその手前、メキシコで危害を加えられたり事故にあったりする移民も多くいること知り暗然とした気持ちになった。

 

次の記事では、パトロナスの宿泊場所としての機能と、そこで出会った印象深い移民たちについて書いてみたいと思う。

 

支援団体「パトロナス」が行っている活動について書いた前回記事はこちら。

hirunecrocop.hateblo.jp

 

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