ヒルネクロコップの日記

ペルーに2年ほど住んでいたスペイン語学習者です。 読書や旅行の記録、ラテンアメリカのニュースについて書いていきたいと思います。2023年秋からメキシコに来ました。

ペルーはなぜ大統領がコロコロ変わるのか <ペルー政変2020 ③>

前にも書いた通り、11月はペルーにとって激動の月だった。

わずか1週間で2回も大統領が交代。

抗議デモによって大勢が負傷し、2人が亡くなった。

hirunecrocop.hateblo.jp

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ペルーでは2018年にも大統領が汚職によって罷免されていて、いまのサガスティ大統領は3年間で4人目の大統領だ。

ペルー人の間では「犯罪者をひとり裁くより、大統領を罷免する方が簡単だ」と言われているらしい。

 

なぜこんなに政治が不安定で、大統領がコロコロ変わるのか。

いくつか分析した記事を読んだので、主な要因をメモしておきたいと思う。

Renuncia Manuel Merino: 4 claves que explican por qué han caído tantos presidentes en Perú - BBC News Mundo

Francisco Sagasti: 3 cambios que pueden ayudar a resolver la crisis política en Perú (más allá del nombramiento de un nuevo presidente) - BBC News Mundo

 

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罷免されたビスカラ大統領(引用元:BBC News Mundo

 

1 制度的なパワーバランスが「議会>大統領」

ペルーはラテンアメリカの中では少数派の一院制の国だ。

(1992年にフジモリ大統領が強権的に二院制の議会を廃止し、翌年に一院制の議会を制定。)

そして大統領制ではあるが、大統領による専制を防ぐために少しずつ議会の権限を大きくしてきたらしい。

 

そのため、議会が大統領や閣僚に対して不信任案を出して可決されれば、わずか一度の投票で罷免できてしまう制度となっている。

(全体の20%の議員の発議で不信任案提出 →40%の議員の承認で投票実施 →60%の議員の賛成で罷免)

 

また、憲法にも問題があって、「道徳的な無能さ(incapacidad moral)」という曖昧な理由によって罷免ができてしまう。

今回のビスカラ大統領の場合、州知事時代に受け取った賄賂を追求されたわけだが、はっきりとした証拠もなく訴追されているわけでもないのに、“道徳的にすぐれていない” として罷免された。

「道徳的無能」が何なのか定義があるわけではなく、今回のように恣意的に運用されてしまう危険を常に持っている。

 

2 腐敗した政治風土

ペルーの政治家を揶揄したスラングで「Vientre de alquiler」という言葉があるらしい。

(vientre=お腹、de alquiler=レンタル)

直訳すると「レンタルお腹」「腹貸します」みたいな感じか。

「お金や権力を提供してくれさえすれば、簡単に他の政党に移りますよ。イデオロギーや政策、政治信条は気にしません」という議員たちの気質を表現したものだそうだ。

 

こちらは、記事に出てくる政治学者の言葉。

”この政策を掲げているから”と思ってある議員候補に投票します。

でも後で確かめたら全然違う立場になっていることに気付きます。

それがここペルーなのです。

議会は極端にたるんでいて、腐敗と癒着の温床になっています。

腹黒く、腹が据わっていない(信念がない)のがペルーの政治家なのだ。

 

実際、いまの国会議員130人のうち、半数以上の68人が汚職容疑で捜査の対象になっている。

ビスカラ大統領は汚職撲滅を掲げて国民の大きな支持を得ていたので、それを煙たがった議員たちが罷免に賛同したと言われている。

今後も大統領が汚職撲滅を目指せば、利権に絡んだ議員たちによって罷免されるというのは十分起こりうる。

 

3 バラバラな政党

上に書いたように、ペルーの長年の政治文化として、自分の目先の利益だけを求めて行動する議員が多い。

そのため、政策や政治信条でまとまりを維持するのが難しく、大きな政党が育ってこなかった。

 

特に今年行われた議会選では、定員130の議席を求めて、21の政党が候補者を出す少数乱立状態になった。

結局9つの政党が当選者を出したが、一番大きな政党でも25議席しか持っていない。

 

ビスカラ大統領は自らの政党を持っていなかったし、いまのサガスティ大統領の政党もわずか9議席だ。

例えば日本の自民党のような大きい政党の後ろ盾がないと、どうしても政権基盤は弱くなり、そのときの風向き次第で罷免決議が行われやすくなってしまう。

 

まとめ

以上の3つの理由を書いてみたが、制度面でも、政治風土的な面でも、なかなか問題が根深く、一朝一夕には解決しそうにない。。

責任内閣制の日本とは違って、大統領と議会が対立するのは見ていてスリリングではあるのだが、そのぶんコロナ対策とか経済再建とかは後回しになっていってしまう。

2021年4月の大統領選でも波乱がありそうな雰囲気はあるので、勉強を続けて注目しておきたい。

 

こちらの動画もわかりやすくまとまっています。


¿Por qué han caído tantos presidentes en Perú? | BBC Mundo