ヒルネクロコップの日記

ペルーに2年ほど住んでいたスペイン語学習者です。 読書や旅行の記録、ラテンアメリカのニュースについて書いていきたいと思います。2023年秋からメキシコに来ました。

ピノチェト時代の虐殺・拷問の記憶 ~チリの「記憶と人権の博物館」に行った~

4~5月に行ったチリ、アルゼンチン、ペルー旅行では印象に残る場所がいくつもあった。

まず書き残しておきたいのが首都サンティアゴで訪れた「記憶と人権の博物館」だ。

来月(2023年9月11日)にはチリのピノチェト将軍によるクーデターからちょうど50年となるが、この博物館では軍事独裁政権時代(1973年~1990年)に行われた虐殺や人権侵害について知ることができる。

いわゆる「ブラックツーリズム」として大変勉強になる場所だ。

記憶と人権の博物館 入口
被害者は約4万人

1973年9月11日、チリでは陸軍のピノチェト将軍がクーデターを起こし、わずか1日で左派のアジェンデ政権を崩壊させた。

ピノチェト将軍

アジェンデ大統領はサンティアゴ中心部のモネダ宮殿で自殺した。

その後、政治的理由による逮捕、監禁、拷問、殺害など、市民への多大な人権侵害が行われることになる。

軍事政権の約17年間で、強制失踪・処刑による犠牲者は3216人、監禁や拷問の被害に遭った人は3万8254人と公式に報告されている。

正確で冷静な展示

この「記憶と人権の博物館」は2010年に開館した。

1973年9月11日に何が起きたのか、軍部によってどのように拷問や処刑が行われたのか、被害者家族たちが正義と補償を求めてどのように戦ってきたのか、などについて体系的に知ることができる。

展示はすべて、1990年に軍事政権が終わった直後につくられた「真実和解委員会」による報告書や、2010年・2011年にあらためて調査が行われた際の「第2次報告書」など、公式の発表に基づいている

その語り口はとても冷静だが、一つ一つの事実にインパクトがあり、心に重く響いてくる。

実際に拷問を受けた被害者の証言ビデオもあって、人間が人間に対して行った行為の醜さを存分に実感できる展示だ。

犠牲者たちの写真と慰霊の空間

すべての展示の中で最も目をひくのが、「不在と記憶」と題されたスペースだ。

壁一面に亡くなった方の顔写真が掲げられていて迫力がある。

手前にはタッチパネルがあり、死亡・行方不明者の氏名が検索できる。

例えばある人の氏名を入力すると、その方の顔写真や生年月日、死亡日、死亡場所、どのように亡くなったのか、など詳細が表示される。

そして「献灯」マークを押すと、画面上で鎮魂のろうそくを2日間灯すことができる。

家族にとっては亡き人に祈りを捧げる場所であり、一般市民にとっては不条理な愚行を二度と繰り返さないと誓う、記憶と慰霊の空間だ。

処刑されて亡くなった方すべてを掲示するのは無理なので、定期的に顔写真の入れ替えを行っているそうだ。

入口に立つのぼりには「1973-2023 クーデターから50年」「二度と繰り返さない」と書かれている

私が行ったときには午後5時からガイドによる館内ツアーが行われていた。

地球の歩き方」には載っていないが、チリについて深く知りたい人、歴史に興味がある人など、ぜひ訪れてほしい場所だ。

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