前回、「濃厚なチョコレートの歴史展」に行った話を書いたが、メキシコでもチョコとカカオに関する博物館に行ったことを思い出し、備忘録のために書いておこうと思い立った。
チョコストーリー博物館(ユカタン州・ウシュマル遺跡)
ウシュマル遺跡のすぐ隣にあるので、遺跡に行くついでに立ち寄る人がほとんどだろう。

想像よりも大きな博物館で、ここに来ればカカオとチョコレートのすべてがわかるのではないかというくらい展示が充実している。
カカオの種類、原産地、古代の用いられ方、収穫や加工の方法などなど。
古代のカカオ飲料を試飲
この博物館の一番の特徴は、古代のチョコレート(カカオ飲料)の試飲をさせてくれることだ。

カカオ豆を石臼で引きつぶし、お湯に入れて溶かし、2つの容器の間を交互に移しながら泡立てる。
チョコレートに砂糖やミルクが使われるようになったのはスペイン征服以後なので、ここでは使われない。
代わりに古代メソアメリカを再現して、唐辛子、胡椒、シナモンなどをトッピングとして入れることができる。


とても苦く、お世辞にも飲みやすいとは言えない。
だが、健康には良さそうな味がする。
唐辛子や胡椒を入れすぎるとかなり飲むのに苦労するので注意が必要だ。
メソアメリカ(特にマヤ文明)ではチョコレートは飲料として王や貴族たちに日常的に飲まれていて、薬や健康増進飲料とみなされていたという。
庶民は口にできなかった。
ちなみに、ナワトル人(アステカ王国の民族)の資料によると、蜂蜜やバニラなども味付けとして用いられていたそうだ(井上幸孝 編著『メソアメリカを知るための58章』179~180頁)。
この博物館では、マヤの人々のチョコレートの儀式も再現してくれるし、庭園ではサルやジャガーなどの動物も飼われていて、エンターテイメント性が高い場所だ。
さまざまな種類のチョコのお土産も充実している。

行き方
ウシュマル遺跡へは、メリダにあるADOのバスターミナルからSURという会社のバスに乗って2時間ほど。博物館は遺跡のすぐ隣にある。
「チョコストーリー博物館」はここウシュマルだけでなく、バジャドリッド(チチェン・イツァ遺跡訪問の拠点となる町)やプラヤ・デル・カルメン(カンクンのそば)にもあるようなので、興味ある方はぜひ。入場料は一般210ペソ(約1500円)。
👇博物館の公式動画
👇グーグルマップ
https://maps.app.goo.gl/DbssM9VfKPQejAS87
"カカウ" カカオとチョコレートの文化博物館(チアパス州・サンクリストバル)
こちらはチアパス州の主要都市サンクリストバルの街中にある博物館。

「チョコストーリー博物館」よりは小ぶりだが、解説員が30分くらいかけてチョコレートの歴史をスペイン語や英語で説明してくれる場所だ。
特にマヤ文明の説明に重きを置いていて、個人的には聞いていてかなり楽しかった。
マヤ神話 イシュキックとカカオの神
メソアメリカ地域には、紀元前2000年頃にカカオ栽培が伝わったとされる。
古代からカカオは神聖な植物で、マヤ神話『ポポル・ヴー』にはカカオの神が登場する。
イシュキックという女性が、義母から難題を持ちかけられた際、相談した一人がカカオの神「イシュカカウ」だったそうだ。
サルとジャガー
マヤ文明では、カカオは動物とも関連が深く、特にサルやジャガーと一緒に描かれることが多い。
解説員の説明によると、サルはカカオを食い荒らしてしまうので敵、ジャガーはそのサルの天敵だったのでカカオの守り神、という認識だったそうだ。
ただ、上の「チョコストーリー博物館」ではサルについて全く逆の説明がされている。
サル(クモザル)は、メソアメリカの多くの表現でカカオとともに描かれている。 猿はカカオの甘くておいしい果肉に魅了され、種を撒く習慣がある。猿は豆のまま果肉を食べ、排便時に種を撒くので、カカオの自然な循環を可能にすることから、カカオの供給者であると考えられている。 この観点から、この小さな霊長類はカカオの豊穣と結びついている。
のだそうだ。どちらが正しいのだろうか…。


カカオの木の横に立つ交易商人は(中央)は「カカオの守り神」ジャガーの衣装を身に着けている。
パレンケ遺跡の王族たちとチョコレート
マヤ文明の古典期(200〜900年頃)はチョコレートの全盛期だ。
この頃のカカオの器にはさまざまな場面が描かれている


マヤの王としておそらく最も有名なパレンケのパカル王(603~683年)もチョコレートを嗜好していたと思われる。
こちら👇はパカル王の母を描いたパレンケ遺跡の石彫のレプリカだが、頭からカカオが生えている姿で描かれている。

👇パカル王の息子も手にカカオを捧げ持っている。
「権力とカカオ」の間にもかなり密接な関係があったそうだ。

カカオは高い価値を持っていたことから通貨として流通していたほか、アステカ時代には地方から中央への朝貢品として重んじられていた。
このテーマは別の記事に書いてみたいと思う。
ちなみに、古代メソアメリカでは人身供儀の風習があったが、生け贄になる人がチョコレートを大量に摂取し、恍惚状態になった後に自ら進んで犠牲になったという(ドミニコ会修道士ディエゴ・デュラン(1537–1588)による記録)。
これはカカオに含まれる興奮物質テオブロミン(カフェインに似た成分)によって引き起こされていたそうだ。
スペイン植民地時代 100ペソ札の修道女も嗜好
だいぶ時代は飛ぶが、16世紀にスペイン人がやってきてから、チョコレートにミルクや砂糖を混ぜて飲む文化が生まれた。

修道女ソル・フアナ=イネス・デ・ラ・クルス(1651~1695)はチョコレートをこよなく愛した一人だ。
メキシコに行ったことのある人には100ペソ札でおなじみの彼女。
当時、男性に独占されていた読み書きを習い、多くの本を出版したという女性作家のパイオニアだ。
彼女はチョコレートに「魂と精神の強さ」を見出していたという。
きっと創作活動の合間にたくさん飲んでいたのだろう。

Billete de 100 pesos de la familia G, circulación, Banco de México
行き方
サンクリストバルの中心部から徒歩で15分ほど。入場料30ペソ(約220円)。予約すればカカオ農園へのツアーにも参加できるらしい。
👇ウェブサイト
👇グーグルマップ
https://maps.app.goo.gl/8e6ET5pyuyYjZH868
スペイン語がすべて正確に聞き取れた自信はないが、カカオとチョコレートの歴史は奥深く、知れば知るほど面白い。
どちらの博物館も旅のメインの行き先ではなくふらりと立ち寄っただけだが、けっこう楽しめたのでおすすめだ。